製作チーム
ウーブンセラミック越前は
4 社のコラボレーションで実現しました。
小笠原弘建築計画
小笠原 弘
建築家
㈱吉光工業
吉田 知志
代表取締役社長
福井県瓦工業協同組合
藤原 綱蔵
専務理事
㈱越前セラミカ
石山 享史
代表取締役社長
製作チーム秘話
ヒントは松岡の”織物”
瓦が織りなす、美しいアーチ
ー この瓦が産まれたきっかけは?
小笠原「福井駅から徒歩5分ほどの中心市街地で、『やすぎ家』という焼鳥屋の店舗設計を請け負った時、外装に県産材を使いたいという話が出たんです。県産材というとだいたいが木材。木材は壁面のような風雨に晒される場所に使う場合、軒を出さないとすぐに痛んでしまう。だけど、ビルが立ち並ぶ駅前は軒を出せるようなスペースはないわけです。それに、杉とかなんかは他県でもよく使っているもので目新しさがなかった。それで、いろいろな案を考えるうち、僕の実家が松岡でテーラーを営んでいたんですが、まわりにはたくさんの機場(機織りをする場所)があったことを思い出したんです。機場で作られる織物、その織り目を表現したいと考えた時、越前瓦のアーチがちょうどいいと思いついたんです。 」
吉田「僕は小笠原さんの後輩で、たまたま瓦屋根を取り扱っていたので、そのアイデアを思いつかれた直後に相談をもらったんです。小笠原さんのデザインされたものは、瓦のアーチを交互に組んでいて、ちょうど平織りの織物のようになっていて。これはアートだなと思いましたね。ただ、こんなデザインの瓦を壁面に使うということは初めてでしたから、組合の藤原さんに相談に行きました。」
藤原「もう、やっかいな相談がきたなぁ~って思いましたよ(笑)だけど、同時に、これはできるかもな、おもしろいなという確信もありました。というのも、形が屋根瓦の基本である和型を使っていましたから。僕が形を作る役目として相談を受けてから、厚さや細さなどを考えながら2~30 個ほど型を作って試行錯誤はしましたね。」
石山「藤原さんが作った型を使って、うちの工場で瓦を実際に焼いていきます。組合で試作してから2~3 ヶ月はかかりました。越前瓦は1,200 度以上の高温で焼くので、県内の土を採取して耐火度のある瓦用のものにブレンドして粘土の素材をつくっています。結構重いので、壁面用に軽量化するための工夫も大変でしたね。」
銀鼠色の風合い、シンプルな形、
再利用可能。
ー 越前瓦の魅力は?
小笠原「越前瓦って、色も形もとてもシンプルなんですよ。だから、和風建築はもちろん、洋風にも合う。壁面に使うことで、どんなものにでも馴染みながら、インパクトを残せる機能的で個性ある素材だと思います。 」
石山「越前瓦の銀鼠という特徴的な色は、高温で焼きますから、どうしても寸法や色合いにちょっとした差が出る。だけど、広い壁面を覆っても、焼きムラがかえって絶妙な風合いを生んでいい味に仕上がるところは魅力ですね。」
吉田「ちょっとした差があっても利用できるという意味では、生産ロスも少なくて済みます。それに、越前瓦は割れない限りは再利用ができるので、エコロジーでもありますね。まだまだ効率化については改善の余地がありますが。」
藤原「壁にも使えるんだから、庭の地中に埋めて表情を出すのもおもしろいと思う。それこそ、壁から床までつながって模様が出せたらかっこいいね。軽量化や効率化とか、もう少し課題を解決していけば、かなり広い範囲で使えるものになるから楽しみやね。」
さらに大きな建物、福井の景観、
そして、世界。
ー これからのプロジェクトの展望は?
小笠原「小さな店舗の外装から始まった越前瓦の新しい使い方ですが、規模を大きくしていって、最終的にはサンドーム福井のような大きな建物をすっぽり瓦で覆ってみたいですね。近くで見れば瓦のアーチがおもしろいし、規模が大きくなれば違う質感が出る。例えば、福井の街のストリートなどの壁面に使えば、織物のように大きくゆるくうねるような表面も生み出せます。瓦という硬い質感から織物というやわらかさを感じるおもしろい体験ができるんじゃないかな。」
吉田「越前瓦としては本当に新しい市場の開拓になるので、さらに研究を進めて、他の福井の産業とコラボしながら、見たことのないものを作ってみたいです。再利用できますから、仮設などに利用してもらうっていうのもアリですね。」
藤原「最近では、福井でも瓦葺きの家が少なくなってきました。また、瓦を作る職人も減ってきています。今回のような新しい使い方が、若い世代にもしっかり伝わって、越前瓦の技術が伝統として継承されていくことを期待しています。」
石山「やっぱりここまできたら世界進出したいですね(笑)」
(聞き手・テキスト/佐藤実紀代)